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税の知識・事例紹介

判決・裁決   今回は、いわゆる預託金会員制のゴルフクラブの会員権を有していた原告P、Qは、平成19年10月25日に訴外Xに対して、会員権を譲渡し、この譲渡により譲渡所得金額の計算上生じた損失の金額があるとして、(損益通算)の規定によりこれを他の各種所得の金額から控除して同年分の所得税の確定申告をした。これに対して、S税務署長が上記の会員権の譲渡は単なる金銭債権の譲渡であるから、資産の譲渡には該当せず、損益通算についての適用はないとして、それぞれ所得税の更正処分をしたため、原告らが各更正処分の取り消しを求めた事案である。(平成26年7月9日 東京地裁判決)

 今回は、いわゆる預託金会員制のゴルフクラブの会員権を有していた原告P、Qは、平成19年10月25日に訴外Xに対して、会員権を譲渡し、この譲渡により譲渡所得金額の計算上生じた損失の金額があるとして、(損益通算)の規定によりこれを他の各種所得の金額から控除して同年分の所得税の確定申告をした。これに対して、S税務署長が上記の会員権の譲渡は単なる金銭債権の譲渡であるから、資産の譲渡には該当せず、損益通算についての適用はないとして、それぞれ所得税の更正処分をしたため、原告らが各更正処分の取り消しを求めた事案である。(平成26年7月9日 東京地裁判決)

※平成26年4月1日以降のゴルフ会員権の譲渡で発生した損失については、他の所得との損益通算が廃止となっています。

<事実>

  • ① K株式会社(以下「K社」という)は、Mゴルフクラブ(以下「本件ゴルフクラブ」という)という預託金会員制のゴルフクラブを設け、平成4年に開場した本件ゴルフ場を経営していた。
  • ② 原告Qの父Lは平成元年9月13日、本件ゴルフクラブの個人正会員の会員権をK社に2,012万円を支払って取得した。Lは平成15年6月23日に死亡し、原告Qは相続により本件ゴルフクラブの会員権を取得した。
     原告Pは平成19年4月20日、訴外Xから本件ゴルフクラブの個人正会員の会員権2口を220万円で取得し、本件ゴルフクラブに個人正会員として登録された。
  • ③ K社は本件ゴルフ場の用に供される土地及び建物(以下「本件不動産」という)について、株式会社S社(以下「S社」という)を受託者として信託し、平成5年に信託を原因とする所有権の移転登記がされた。
  • ④ K社は、平成18年11月28日、株式会社Uゴルフ倶楽部(以下U社という)との間で、本件ゴルフクラブの運営に関し、包括的な運営受委託契約を締結した。そして、U社はK社の現在の会員に対する優先的低額設備利用を引き続き保証し、本件ゴルフクラブの名称を「Uゴルフ倶楽部」に変更し、平成18年12月1日以降は、U社がその運営を行っていた。
  • ⑤ K社の債権者である合同会社A社(以下「A社」という)は、東京地裁に対し、S社、K社を被告とする訴訟を提起していたところ、当該訴訟については、平成19年9月19日に上記当事者及び利害関係人であるU社他の間で、以下の内容による裁判上の和解が成立した。
    • イ)K社はA社に対して、債務として27億1,185万円及びこれに対する遅延損害金の支払い義務があることを認める。
    • ロ)S社はA社に対し、(イ)の金員の支払に代えて、平成19年9月28日限り、本件不動産の所有権を譲り渡し、A社はこれを譲り受ける。
    • ハ)A社、U社及びK社は、本件和解成立時点におけるK社のゴルフクラブ会員に対して、本件不動産に所在する「Uゴルフ倶楽部」における「プレー権内容一覧」記載のプレー権を保証することを相互に確認する。

      「プレー権内容一覧」には、1、本件ゴルフクラブの会員について、Uゴルフ倶楽部におけるプレー権会員としてプレー権を保証する。2、プレー権会員は、一代限りの会員として取り扱う。3、プレー権会員は一代限りの会員であることから、名義変更・登録者変更は認めないこと、等が定められている。

  • ⑥ 原告Pは、平成19年10月25日、仲介業者であるXに対し、本件ゴルフクラブ会員権2口を合計2万円で譲渡し、仲介手数料として4万円を支払っている。原告Qは、同日、同じくXに対して、同会員権3口を合計3万円で譲渡し、仲介手数料として6万円を支払っている。以下原告らがXに譲渡した会員権を「本件会員権」という。
  • ⑦ 原告らは、平成20年3月17日、本件各譲渡に係る譲渡所得の金額の計算として生じた損失の金額を所得税法69条の1項(損益通算)の規定により他の各種所得から控除して、平成19年分の所得税の確定申告書をS税務署長にそれぞれ提出した。
  • ⑧ S税務署長は、平成23年3月11日付けで、原告Pの平成19年分の所得税の納付すべき税額を0円とし、申告による還付金の額に相当する税額8万3,400円の増額更正処分を行った。同日付で、原告Qの平成19年分の所得税の納付すべき税額を41万8,800円とし、申告による還付金の額と合わせて191万5,600円の増額更正処分を行った。

<争点>

  •  本件会員権の譲渡は譲渡所得の基因となる資産の譲渡に該当するか。

<原告の主張>

  •  本件譲渡当時における本件会員権には優先的施設利用権が認められ、譲渡所得の基因となる資産であった。

<税務署の主張>

  • ① 預託金会員制ゴルフ会員権は、ゴルフ場設備の優先的利用権、預託金返還請求権及び年会費納入義務等を含む契約上の地位であり、この譲渡は所得税法33条の資産の譲渡に該当する。一方、金銭債権は、譲渡所得の基因となる資産には該当しない(所得税基本通達33-1)。
  • ② 本件会員権にはゴルフ場の優先的施設利用権は含まれておらず、預託金返還請求権のみが譲渡されたものと認められるから、本件譲渡は金銭債権の譲渡であり、譲渡所得の基因となる「資産の譲渡」には該当しない。

<東京地方裁判所の判断>

  • ① 本件においてA社は、平成19年9月28日、K社から本件不動産の信託を受けていたS社から、本件代物弁済により、本件不動産の所有権を譲り受け、同日本件不動産について、A社を賃貸人、U社を賃借人とし、期間を同日から平成21年12月31日までとする賃貸借契約が締結されている。その結果、従前はK社との間で運営受託方式により本件ゴルフクラブの運営を行っていたU社は、上記の平成19年9月28日以降は、A社との間で新たに形成された権限に基づいて本件ゴルフ場の運営を開始するに至ったものであり、遅くとも上記の時点において、K社については、同社が本件ゴルフクラブの個人正会員に対して負う本件ゴルフ場における優先的施設利用権に係る債務の履行は不能になったと認められる。
  • ② 以上のとおり、本件ゴルフ会員権の譲渡は、譲渡所得の基因となる資産の譲渡に該当するとは認められない。

<総括>

  • ① 本件は、経営破綻しゴルフ場の施設を失いプレー権の消滅したゴルフクラブの会員権の譲渡が、譲渡所得の基因となる資産の譲渡に該当しないとする新しい裁判所の判断である。その結論は正当であると考えられる。
  • ② 国税庁の所得税基本通達33-1は、金銭債権を譲渡所得の基因となる資産に該当しないと定めている。本件の預託金会員制ゴルフクラブ会員権の内容は、ゴルフ場施設の優先的な利用権、預託金返還請求権、年会費納入義務等を含む法律上の地位のうち、ゴルフ場施設の優先利用権が失われた、単なる預託金返還請求権と年会費納入義務の個別の権利義務になると解される。国税庁の通達によれば、金銭債権は譲渡所得の基因となる資産ではないとされているので、預託金返還請求権の譲渡による損失について、損益通算する事はできないこととなる。この観点からは、本件会員権の譲渡時点におけるゴルフ場施設優先利用権の存否により、損益通算が認められるか否かが決まってくる。
  • ③ また、次の2つの理由により、本判決が課税処分を正当とした結論は正しいと考える。
     その理由の一は、本件会員権に優先的施設利用権があったとしても、その権利は一代限りとされ、譲渡が認められていないことにある。譲受人Xは、本件会員権をU社に対して主張できないのであり、このような権利が移転したといえない譲渡は、法33条の資産の譲渡の「譲渡」に該当しないと考える。
     理由の二は、本件会員権に経済的価値が認められないことにある。本件会員権にK社に対する預託金返還請求権が含まれていたとしても、K社の状況からその金銭債権の実質的価値は0といえる。譲渡所得の基因となる資産は、法36条(収入金額)が規定する収入すべき金額を生み出す資産、すなわち経済的な価値の存在する財産をさすものと解される。本件会員権の価格は1口1万円とされているが、仲介手数料2万円を支払っている。これは、本件会員権の価値が0であることを示している。
     従って収入すべき金額の存在しない資産の譲渡は、法33条の「資産の譲渡」に該当しないと解される。

(平成28年9月掲載 Y.K)